「やさしき夜の物語」 円地文子 集英社文庫
2005年 03月 22日
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『更級日記』で名高い菅原孝標女が書いたのでは?と言われている古典『夜半の寝ざめ』を散逸部分を補って訳した作品。
先日、古本屋で見つけて購入し、久々に再読。
前に読んだのはもう随分前で、ただ題名どおり心地良いやさしさに満ちていて、「良かった!」という印象が強く残っている。その印象に比べれば微かだが、ほんの少しだけ、不満とか違和感とかを覚えたような記憶がある。それが何に対してだったかは覚えていないのだが・・・。
今回読んでみて、多分、むかし不満に感じたのはここだな、と見当がついた。
終わり方が尻切れトンボと感じられなくも無いのだ。今回読んだら、殆ど違和感は感じなかったのだが、多分、その時はそう感じたと思う。あの頃は何でもかんでも結末がきっちりわからないと嫌だったハズ。
ちょっとネタバレになるが・・・
(これから読もうと思っている方で、ストーリーをご存じない方は読まない方が良いかも・・・。読まれる方、読み辛かったら反転させて読んで下さいね。)
二人(綾の姫と宗平)の秘めた恋とそれに苦しむ心情までも理解して綾の姫と結婚した関白高峰卿が、妻の後見を宗平に託して死んで行くところで物語は終わっている。始終二人の恋に温かな眼差しと労りを注ぎ続けて来た高峰卿の死は一つの物語の終焉に相応しいし、余韻を残す終わり方でもある、と今は思う。主人公はあくまで恋人たちだが、高峰卿の慈愛に満ちた限りないやさしさがこの物語を包み込んで、心地良いやさしい雰囲気を醸し出している。二人の恋の行方よりも、この高峰卿によって表現されるものの方がずっと重要なファクターに思われる。
でも以前読んだ時はきっと、障害が取り除かれた後の二人が結ばれるまで、きっちり書かれていないのが不満だったのだろう。
しかし、この終わり方は著者の作為ではなくて、原典がこのあたりから先は散逸しているのだ。
全巻あったら『源氏物語』匹敵する一大巨編で、散逸部分では結局は結婚したものの、宗平の嫉妬深さにたまりかねた綾の姫は大勢の子供を残して失踪、出家してしまうのだそうだ。つまり、綾の姫の苦悩に満ちた一生を描いた意欲作らしいのだ。
しかし、それは円地さんの作り上げたやさしさに満ちたこの物語の終焉には相応しいとは思えない。勿論、全巻が残っていたら、円地さんもこんな切り口で描こうとは思わなかっただろうが。
そうそう・・・円地さんにこんな切り口で書くことを可能にさせたのは、残存部分にも一部散逸している部分があって、そこで残存部分から感じたイメージを大きく膨らませられたからだそうだ。
この作品の読者にとっては巧い具合に散逸してくれたものだと思う。(笑)
『更級日記』で名高い菅原孝標女が書いたのでは?と言われている古典『夜半の寝ざめ』を散逸部分を補って訳した作品。
先日、古本屋で見つけて購入し、久々に再読。
前に読んだのはもう随分前で、ただ題名どおり心地良いやさしさに満ちていて、「良かった!」という印象が強く残っている。その印象に比べれば微かだが、ほんの少しだけ、不満とか違和感とかを覚えたような記憶がある。それが何に対してだったかは覚えていないのだが・・・。
今回読んでみて、多分、むかし不満に感じたのはここだな、と見当がついた。
終わり方が尻切れトンボと感じられなくも無いのだ。今回読んだら、殆ど違和感は感じなかったのだが、多分、その時はそう感じたと思う。あの頃は何でもかんでも結末がきっちりわからないと嫌だったハズ。
ちょっとネタバレになるが・・・
(これから読もうと思っている方で、ストーリーをご存じない方は読まない方が良いかも・・・。読まれる方、読み辛かったら反転させて読んで下さいね。)
二人(綾の姫と宗平)の秘めた恋とそれに苦しむ心情までも理解して綾の姫と結婚した関白高峰卿が、妻の後見を宗平に託して死んで行くところで物語は終わっている。始終二人の恋に温かな眼差しと労りを注ぎ続けて来た高峰卿の死は一つの物語の終焉に相応しいし、余韻を残す終わり方でもある、と今は思う。主人公はあくまで恋人たちだが、高峰卿の慈愛に満ちた限りないやさしさがこの物語を包み込んで、心地良いやさしい雰囲気を醸し出している。二人の恋の行方よりも、この高峰卿によって表現されるものの方がずっと重要なファクターに思われる。
でも以前読んだ時はきっと、障害が取り除かれた後の二人が結ばれるまで、きっちり書かれていないのが不満だったのだろう。
しかし、この終わり方は著者の作為ではなくて、原典がこのあたりから先は散逸しているのだ。
全巻あったら『源氏物語』匹敵する一大巨編で、散逸部分では結局は結婚したものの、宗平の嫉妬深さにたまりかねた綾の姫は大勢の子供を残して失踪、出家してしまうのだそうだ。つまり、綾の姫の苦悩に満ちた一生を描いた意欲作らしいのだ。
しかし、それは円地さんの作り上げたやさしさに満ちたこの物語の終焉には相応しいとは思えない。勿論、全巻が残っていたら、円地さんもこんな切り口で描こうとは思わなかっただろうが。
そうそう・・・円地さんにこんな切り口で書くことを可能にさせたのは、残存部分にも一部散逸している部分があって、そこで残存部分から感じたイメージを大きく膨らませられたからだそうだ。
この作品の読者にとっては巧い具合に散逸してくれたものだと思う。(笑)
by yuiga28
| 2005-03-22 16:54
| Book 歴史